六話

放課後。
結局、智樹に貸した500円はうやむやだ。
「今度返すよー」
とかはぐらかされ、返ってこない可能性が大だ。
くそ・・今度から誓約書でも書かせよう。うん、利子も付けよう。
夕菜先輩が・・待ってるんだよな・・・。逃避したいけど、逃げたら後々に何されるか分かったものじゃない。一生奴隷とか、そんな感じだ・・。
靴箱で上履きから靴へと履き替えようと手を伸ばすと、靴の上に見に覚えのない紙が置いてあった。
これ、まさか・・・
「ラ―ら・ブレタ?」
思わずぼやき、半歩下がった。
まて・・決まった訳では・・・。
恐る恐る、ソレを手に取った。
「はーーと?」
その紙の枠はハートの模様で埋め尽くされていた。
鼓動が速まる。
本物ですか?
「・・・長友有紀君へ・」
その場に突っ立ち、ボソボソと呟きながら、その手紙を読んだ。 「長友君、今日の放課後、学校の近くにある喫茶『21』で待ってます」
えらく簡潔な内容だった。
が、その衝撃は計り知れない。
ふと、手紙の裏面を見てみたら右下に小さく『S』と書かれていた。
Sって誰だろう・・・?
しかし、さっきまでの夕菜先輩に会いに行かないといけないというどちらかというと不安一杯な気持ちを忘れ去ることができた。 ラブレターか・・。確かに嬉しいけど、な。
悪戯とかさ。
どうしよう・・行こうかな。
行かなかったら行かなかったで、悪評とか立つかもしれないし。 重要なのは、夕菜先輩。断ることは・・できないな。それこそやばい。
「あーどうし――」
「どうしたの〜?」
いきなりの声。
「委員長?」
横に立っているのにも関わらず気付かなかったみたいだ。思ったよりコレは俺の思考を妨げていたらしい。もちろん、コレはさり気なくポケットに入れた。
「なんか難しい顔してたけど、どうしたの?」
「えっ?いやちょっと、迷ってることがあってさ」
はぐらかす。
「迷い事?」
「そうそう迷い事迷い事。てか、委員長こそなんかソワソワしてない?」
上靴から土足に履き替える動作が、どこか急いでる感じだ。
「あ、うん、急いでるの!」
「俺のことはいいからさ、行きなよ?」
委員長はコクコクと頷いた。
「ありがと!じゃぁまた明日ね!」
そう言うと委員長は走って校門へと。向う途中、あっ!と何かを忘れていた感じで1度振り返り俺を見た。
「迷ったらね、迷わずススメって!昔聞いたことあるよ!」
そう俺に叫ぶと踵を返して駆けて行った。
「迷わずススメねぇー・・なんか変な言葉」
んー・・急いで喫茶まで行って、急いで帰ってきたら先輩待っててくれるかな。
多少の覚悟はいるけど・・。
委員長ほどじゃないが、足早に校門を抜けて行った。
幸か不幸か、まだ夕菜先輩はいなかった。

喫茶『21』前。
なんで『21』かというと、ここのマスターは賭け事好きでブラックジャックから因んで名付けたらしいのだ。俺も・・主に智樹とだがたまにここを利用している。
校門を出たあたりから走ってきたからまだ息が整ってない。
なんか・・・いつもより敷居が高い。
高いな。
いつもの木製のドアノブを回すのにもなんか体力がいる。
ドキドキが止まらない。
かれこれ2分は、『21』の前をウロウロしていると思う。
いや、だって告白だぞ。告白。

「永友君のこと―――、ずっと前から、好き・・でした。付き合ってくだ・・さい。」
そう言って彼女は深く頭を下げる。

とか、あるかもしれない。
俺がここで思考を巡らしている間での入店客は0・・相手はすでに中で待っているだろう。
流石にこのままここに突っ立っていてもダメだ。
行くしかない。
夕菜先輩も待たせたら怖いしな。
一回軽く深呼吸の後に、手に力を込めた。
ガチャッと扉の開く音。店員さんが「いらっしゃいませー」と言う声。どこか霞がかって聞こえた。
どこだ?
手紙からはどんな子なのかは読み取れないが、うちの高校の生徒だろう。靴箱に入ってたんだしな。
店内を見まわしてみるがパッ見た感じではうちの高校の制服を着た女子生徒はいない。
「あれ、まだ来てないのかな・・」
ちょっとした不安が湧いてくる。・・・悪戯とか。
そうだったらすごくかっこ悪いなー俺。
考えがマイナスに修正されかけたその時だった。
「永友・・君」
後ろから声が聞こえた。
やっぱり緊張するな。
「あ・・貴方が手紙をくれた人?」
俺は振り返った。
・・・あっ。
そこには長髪できれいで「前どこかで会ったことあるよね?」っていう口説き文句を使えそうな、ていうか・・・
「・・先輩?」
そこには高校の校門前に立っているはずの夕菜先輩が立っていた。
しかも学校の制服じゃなく私服で。
状況が飲み込めない。
「先輩・・なんで?」
夕菜先輩は言葉を無視し俺の腕を掴み奥の4人掛けの席へ無言で誘導し
てか、さっき『永友君』て・・・。
「永友君」
また夕菜先輩が言葉を発したのは、俺たちが向かい合うようにして席についてから、少ししてからだった。
テーブルの上には夕菜先輩が飲んだと思われるコーヒーがある。
「先輩、あの・・意味が分からないんですが・・・」
「あのさ・・」
また無視。
「私・・ね?」
夕菜先輩はどこか切羽詰まっている様子だった。そういえば、さっき委員長もこんな感じだったっけな。
「私・・・」
先輩が話しきるまで待っとくことにした。
なんで、私服なんだろうか?
そんなことを考えているとき、すっと夕菜先輩が俺と目を合わせてきた。
どことなく、必死な目だ。
「ゆぅ・・永友君のことが・・好き」
いい終わると夕菜先輩は頭を伏せた。
ん?俺のことが好き?
夕菜先輩が?
答えは簡単に解る・・そんなことはあるはずない。
「ちょっと先輩、驚かさないで下さいよ」
少し笑いながら先輩を見た。
「いつもの悪戯も大概にしてください、1日2回は流石に堪えますよ?」
少しの間。
「つまらなよー!」
頭を上げながらそう言った。
「有紀君ったら、もっと面白い反応してくれなきゃつまらないよー」
いつもの夕菜先輩だ。ただ笑ってはいるはいるけど、なんか眉間に少し皺が寄ってるし、目がヒクヒクしてるし。
まさか、怒っているのか・・?
「あっ、なんで私服か気になった?これね、きっと有紀君のことだからまずは制服着てる女子探すだろうなーって」
流石というかなんというか。
「あと、なんで『S』なのか・・『S』とは『先輩』の『S』でした〜!」
いつもより今日はよく喋るな。
「そ・そうなんですか・・」
どことなく、いつもよりなぜか明るい気がした。
「ところで有紀君さぁ、わたしとの待ち合わせじゃなくこっちに来たってことは・・・」
あぁ、触れられたくないとこを。
「いや、それは・・いいじゃないですか、結果は同じですし」
「ちがぅょ・」
ぼそっと小声で何かを呟いたようだったが、聞き取れなかった。
「いいわ、以降きをつけること!先輩命令ね!」
と言い放ち、すっくと席を立った。
「どうしたんですか?」
「私は帰ね、用事あるから」
そう言うと俺が何かを言う前に早足で店を出て行った。
「今日はおかしかったな、先輩」
いつもおかしいかとは、言わないでおこう。
ん?
テーブルの上のコーヒーカップが目に止まった。それに、その横には・・・
「・・・伝票」
先輩のコーヒー。ちゃっかりと俺の奢りになってるし。
俺も帰るかな、と財布に手を伸ばして思い出した。
まじかよ・・悪戯レベルじゃないよ、これ。
夕菜先輩もここまで頭が回らなかったらしい。
無銭飲食ってやつ。
「どうしよう」
頭を抱えた。
「どうしたの?」
ん・・。金がないんだよ。
「お金?」
そうそうって・・
頭を上げた。
そこには喫茶『21』の店員・・の格好をした銀見 翠―我らが委員長がじぃっと俺を見て立っていた。
「どうしたの、その格好?」
黒の地に白で『21』とプリントされたエプロンを着ている。
「見て分からないかな?バイトしてるの、ここで」
床を指さしてそう言った。
「お金ないの?」
バイトのことが気になったていたが、委員長は速やかに本題へと移るようだ。
「あ・・あぁ、コーヒー代がないんだ・・明日絶対返すから貸してくれないかな?」
拝みながら頭を下げる。
「仕方ないなー、いいよ」
快い返事を貰えた。
「ありがとう、ほんと助かったよ」
「クラスの委員長だもん、これくらいは当然よ」
世間の狭さに救われた。
「でも」
委員長は続けた。
「さっきの女の人、泣いてたよ?」
「へ?」
「女の子が涙堪えるときってあぁやって眉間に皺が寄るんだよ」
「涙って・・あの人は、たた悪戯好きでさ」
「ごめんね・・聞くつもりはなかったんだけど、女の子は、好きな人以外に『好きだ』って言わないよ」
委員長は困ったように、微笑んでいた。
「そんなことないよ、あの人は、能天気で悪戯に長けてるただの先輩」
「誰が誰を好きになるかなんて分からないものだよ。きっとその先輩もきっと永友君のことが好きだったんだよ、」
「心配し過ぎだよ。あの先輩は大丈夫だからさ」
俺はそう言いながら席を後にした。
「お金助かったよ」
「別に明日じゃなくてもいいからねー」
会計を済ませるときには、いつもの委員長に戻っていた。
喫茶を出てから、さっきのことを思い返していた。どちらかというと夕菜先輩より委員長の言葉。
「誰が誰を好きかなんて分からない、か」
そりゃぁ、当然だよな。
俺は、そういうことには疎いらしい。
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