48.

 家屋の被害と人的被害の報告を纏め上げて、それを元に再建計画の骨子を作るのに不眠不休の突貫で行っても、10日ばかりは掛かった。
 その間にホルタスから編成を終えた大隊が続々と届いたので、セレンは既に保持していた1個大隊と合わせたものを、副官の1人に指揮させて異民族の方に向けて進発させていた。彼は、この隊を陽動で異民族の行動を狭める為のものだと言っていた。北への進路を遮断し、東方のこの城塞都市に向かってくるように仕向ける為のものだと。
根拠地を攻略し、第8軍団が自由に使えるようになったので、状況は圧倒的な優位へと一気に傾いていた。反乱は頭を潰された蛇のようなものになり、ホルタスが手古摺っていた蜂起も鎮圧しつつある。本隊は縋る相手を失い選択肢を狭められたアラマニ族と相対することになるだろう。依然、兵数においてガラッシアは劣っているが、正規軍と蛮族の衆とでは錬度には明らかな差がある。余程のことがなければ万が一にも敗れはしない。
セレンもその認識であるらしく、それを行動であからさまに示していた。彼のこの10日間の生活はアリスの多忙を後目に本を書いたり、女を引っ掛けたり、本当に好き勝手だ。
 ようやく修羅場を越え、細かい調整が主になってきた頃に、副官と言葉を交わす余裕が生まれると、副官たちとの会話にもそういった事が口の端に登るようになった。
「気楽なものですね。総督閣下は」
 副官の1人であるマルクスは、アリスが頭を抱えそうな報告を持ってきた時にそんなことを言った。アリスは文面にこめかみを押さえたくなるのを何とか押し留めて、顔だけをマルクスに向けた。
「いつものことだろう」
 一本調子の関心なさ気な言葉に副官は不服そうに眉を寄せる。賛同してくれると思っていたらしい。
「ですが、我々が不眠不休で仕事をしている中で、あのように為されていると。戦闘でもあまり働かれてはおられたとは言えないのに」
 その言葉にもアリスは、燻っているマルクスに言い聞かせるようにセレンの肩を持つ言葉を連ねた。
「あれが実務をする必要はない。悠然としている分だけ、私たちには余裕があるということだ。アラマニ族の来訪の時をお前も見ていただろう?」
セレンが僅か一瞬、驚愕の表情をしただけで、動揺は副官全員に広まった。もし、あの時の彼の反応が正しければ、場の空気はもっと違ったものになっていたことだろう。そう思うとセレンもまだ若いのだと感じた。完成された人間ではないし、伸び代はまだ多い。人間らしく感じられて少しだけ、嬉しいものがあった。
 しかし、感じ方は人それぞれで、マルクスはあまり納得をしていないようだ。
「そうかもしれませんがね。現実にあれだけ好き勝手されると思うところは生まれてきますよ。私も働いていますし、貴女の苦労を見ている分」
「でも、セレンがやると私の苦労は苦労じゃなくなってしまうよ」
 自嘲気味の言葉にマルクスは訝しげな眼を向ける。それにアリスは珍しく上機嫌な調子で答えた。
「私よりもずっと優秀な実務家だぞ。考えてもみろ。本当に何もできないなら、私の今のこの役はベテランがやっていただろう」  その言葉に、不服そうながらマルクスはセレンの力を認めた。
「確かに、そうかも知れません。では、統御に長け、実務に優れ、人を見る目がある、となればあの方に欠点などあるのでしょうか」
 皮肉っぽく言うマルクスは、
「さぁ、当分、人格が優れているとは聞くことはなさそうだがな」
 アリスの言葉でマルクスはくすりと笑みを零した。会話がひと段落付いた所で彼は辞し、彼女は再び仕事に戻る。外から春の風が吹いてきて季節の変わりを実感させた。後、二ヶ月もすればセレンはシオンに戻り、執政官選挙への準備に追われ、アリスは新しい総督を向かえて、戦後のこの属州を立て直す陣頭指揮を執らねばならないだろう。それを考えると心が浮かない。憂鬱な気分の原因を彼女は分からなかった。
 蟠りは一先ず無視して書類に向き合い、格闘していると、どうしてかミーネのことを思い出した。短い期間、彼女の副官を務めたことがあり、アリスの実務能力の大半をその時のミーネの仕事ぶりを手本にしているからだろう。アリスは今に至って、ようやく本当に彼女は優秀だったのだと実感していた。同時に僅かな郷愁に似た思いと惜しさも感じていた。今も彼女はマリウス傭兵団に勤めているのだろうか。あの場所は決して彼女が望んだ未来ではないだろう。財務官という上を目指せる地位を得てアリスは多少、当時のミーネの心情を理解できる気がした。思えば、ミーネには忸怩たる思いがあっただろう。彼女が親しく交わっていたセレンにもアリスにも洋々たる未来が約束されつつあった中で彼女はちっぽけな傭兵団が最大の地位だったのだ。才能にこれという差異があったわけではない。分かったのは些細な運とか生まれとかの個人ではどうしようもない部分でのことだ。
 セレンが士官としてガラッシアに復帰したのを知った時、諦めたように首を振ったのを今でも何故か鮮明に思い出すことができた。
 アリスは動かしていた手を止めて、空を見遣る。あのミーネに対して憐憫のようなものを抱いている自分に対して軽蔑したい気持ちになった。いつから自分はそんなに偉くなったのかと思うし、彼女はそんなことをされると誇りを傷つけられたと酷く怒るだろう。この感傷的な性向はあまり好ましいものではない。
 そう思ったところで、何の用かセレンがひょいと顔を覘かせた。
「どうしたの、溜息なんて吐いて」
 アリスが来訪に対応できず、思考を引き摺っている間に、セレンは勝手に中に入ってきて我が物顔で来客用の椅子に腰を下ろした。その向かいに行こうとしたがセレンがそれを手で押し留めたので、アリスは座り直し、セレンが放ってそのままだった話の穂を摘む。
「ちょっと、昔のことを思い出してて」
「ルクセンブルクのこと?」
 即答で、答えを突いてきたセレンにアリスは目を丸くした。
「どうして分かったの?」
「他に、君が思いを馳せる人間がいるとは思えなかったからね」
 アリスが拘ったのには興味なさそうに、セレンは、何時彼の訪問を知ったのか殆ど時を置かず現れたよく教育された奴隷の給仕を受ける。1度、口を付けてから杯をテーブルに置いたセレンは続きを促した。
「それで、どうしたの? 彼女の優秀さを再確認でもした?」
 セレンの問いにアリスは深い賛同を示した。
「そうだな。結構、大変だったんだなって。戦後処理がこんなに難しいとは正直、思ってなかった」
 その言葉にセレンはそう、と軽い同意を与える。
「しかし、やりがいはあるだろう。破壊して作り直すというのは中々経験できることではない」
「だが、それが日常になってしまうのはいいことだとは思わないな」
 アリスがそう言うとセレンは不敵に口端を吊り上げる。
「人間の作ったものはいずれ腐ってしまうよ、血は入れ替えなければならない。そうすることで我々は永遠に生きて行けるのだからね」
言い終えて杯を傾けるセレンをアリスは見詰めた。少しずつ準備を整えていくセレンはやはり一歩ずつアリスから離れていく。
 副官たちに悪し様に言われようと彼が本当に何もしていないとはアリスは考えていなかった。第8軍団の再編も既に終えているし族の行動を思いのままにしようという意思の発露もある。セレンが怠惰の極みに見えているのは、そういう目に見えない意図の役目の外は全ての義務をアリスに負わせているからだ。それも怠慢と受け止められるが、自らの評判と引き換えにアリスの存在を際立たせているのだから、思惑はあるのだ。彼は自尊心の強い人間でもあるが目的に手段を選ばない人間でもあった。
 やはり、北を考えると形振り構っていられないのだ。デルタ三国をどうにかせねばガラッシアの未来は暗いものとなる。それくらいはアリスの頭でも考えられたが、何時、行動に移すのか、その時期は見当が付かなかった。
国内は後継問題に揺れていた。セレンは紊乱者だが、彼の元に纏まらない限り北伐は行えそうにない。贔屓目が過ぎるのだろうが、アリスはそう真剣に考えていた。
 しかし、実際に老王も戦はセレンと考えているのか、セレンに求められると大きな権限を簡単に与えてきた。これで後継は半分決まったようなものだが、決定打ではない以上まだ分からない。確定したのは老王、治世末期の軍総帥をセレンが務めるということだけだ。
 クラウディウスはまだ逆転を狙ってくる。ヘリオスはこれまで後継者として遇されてきた強みもある。セレンはどうしても実力で奪い去るという印象を与えるからそれに反撥する人間も出てくるだろう。
 セレンがとりあえず与えられた大権を用いて、国内か国外か、そのどちらを優先するのかもまた、不明瞭だ。曖昧なまま対アエテルヌムに突き進むかも知れないし、まず色々とはっきりさせるかも知れない。だが、どちらを選んでも血が流れるだろう。その片棒をアリスが担ぐことになるだろう。
 その為のこの1年なのだ。アリスが彼の片腕として認められる為の、彼が後継者に相応しいと示す為の。
 そう考えると最後の仕上げは速やかに鮮やかに済ませなければならない。気持ちを新たにすると、それを測っていたようにセレンが口を開いた。
「明後日には進発する」
 アリスはただ頷くしかなかった。それを早める為に不眠不休で仕事をしてきたのだから、その言葉は彼女を満足させるものだ。それに、セレンがアリスの施政に完全に了承を示したことになる。この街の復興策はこれまでのその場しのぎの方策とは違い、反乱鎮圧に伴って本格的になる南部属州の再興の大きな転換期となる部分なので、それを認められたことは非常に大きな意味を持つ。
 しかし、そのことにはセレンもアリスも言葉では触れなかった。そんなことはお互いに十分に分かっている。さらりとその部分は通って、セレンは今度の戦いの懸念に触れた。
「厳しい戦にはならないだろうが、数が多い。目を逸らしたくなるような結果になるだろう」
 探るような眼差しを受け、アリスは抗弁した。
「分かってる。慣れるのに少し時間が要るだけだ」
「だといいけど。詰まらないことで溝が生まれるのは好ましいことではない」
 自分でも馬鹿な感傷だとは自覚していた。それを理性で分かっていたところで感情まで統御できるわけではないが、感情というのは慣れてもいくものだ。
「大丈夫。ちゃんとやれる」
 見透かすように目を細め、たっぷり時間を掛けてからセレンは頷いた。
 ガラッシアは前執政官格命令権保有者、前法務官格属州総督セレネスは、二つの軍団を駆使して、アラマニ族数万の行動を支配した。先行させた1個軍団で北への進路を防ぎ、1個軍団で、それを迎え撃つ。また、自由になったホルタスに命令を下して彼らの背後を襲わせる算段も整えた。
 食料に窮するというアラマニ族は蝗のように土地を荒らして進んでいたが、不足を補えてはいないようだった。元々、南部属州は貧しく備蓄が豊富にある訳でもないのだ。在る時期を境に彼らは歩みを止めて、定住の動きを見せた。恐らく、反乱が潰えた事を漸く知ったのだろう。河に近い丘陵地帯に三つに部族を分けて、沢山ある丘の頂上の固まった三つにそれぞれ居住地を建てていた。
セレネスはその報告を先行させた騎兵隊に聞いて、全方向を3個軍団で囲ませた。東北を実質的にクラッシアヌスが指揮する1個軍団。北西の河を挟んでホルタス率いる1個軍団。そして南方を本隊であるセレネスが率いる。水以外の全てを外界から遮断されたアラマニ族だったが、それ自体は反乱が潰えた時と何ら変わっていない。歩みを止めた時点で攻囲される事は覚悟していただろう。 何か賭けにでるつもりなのかと、予想していたら案の定、使節を送りたい故、2日間の休戦を了承してもらいたいと書かれた書状を携えた使者が現れた。
司令官の天幕でそれを聞いたセレンは、受諾する旨を使者に知らせて帰らせた後、アリスの直属の副官を天幕に呼んだ。マルクスと彼のいとこだ。アリスはホルタス、クラッシアヌスと連絡方法やら補給やらの調整の会合の所為でそれに出ることは叶わなかった。
 族長の使者として10人あまりの貴族がガラッシア軍の軍営地に現れたのはその日の夕方だった。異国情緒溢れる民族衣装を身に纏い、沢山の宝物を若者に引かせた車と、美女と思しき女を50人ばかり連れていた。使節はセレンの天幕に案内され、貢物はアリスが処理しなければならなかった。指示を出し終えて、会談が催されている天幕に入った時には既に話は本題に入っていた。10人の貴族が座る反対側に机を挟んでガラッシア側はセレンの他に通訳とマルクスとその従兄弟が副官の代表として同席していた。アリスはセレンの左左隣に開いていた席に腰を下す。
「ガラッシアは貴方たちの逗留を認めない」
 セレンが傲慢ぶった態度でそう宣言した。彼の強硬な態度に、貴族たちの狼狽振りは哀れに成る程だった。それでも何とか縋り付こうと言葉を繰り出す。この問答は初めてではないようだ。 「我々はガラッシアの要請で国許を離れたのです。それを今更になって認めないとは誇り高き貴国の名誉に係わりましょうや」
 それも梨の礫だった。
「私はそのような許可を与えた覚えはない。貴方たちが叛徒から受け取った書状は私の関知しえないものであり、畢竟ガラッシアの責任にあるものではない。このような状況になってしまったのは遺憾だが、そのことははっきりと確認しておく。そして、我が国は我が国の認可なしでの越境に強く抗議し、必要とあらば状況に適した如何なる手段をも行使し得ることをここに明確に宣言し、あなた方の退去を要請する」
 強硬な態度をセレンは続け、相手は途方にくれたように狼狽していた。南の勢力からの圧力に耐えかねて北進に踏み切ったのだから、不退転の覚悟はあるのだろう。しかし、食料の確保にも苦吟しているし、加えて敵中に完全に孤立している。その中で武力にものを言わせて新天地をつかみ取ろうという気概を持ち続けられることは並大抵ではない。何よりこうして交渉で打開しようという傾向に彼らの不安が現れているように思えた。
彼らは取り付く島もないセレンを相手に首座の老人は粘り強く切り口を色々と変えて何かの糸口を見つけようとしていた。
「いえ、閣下。我々は勿論、何も土地を寄越せと傲慢なことを言っているわけではありません。その広大な土地の一端を借り受けたいと言っているだけです。対価もお払いします。我々の産出するものを貴方に直接お納めしてもいい。我々は多少耕作には通じています。この土地でも穀物を産出できるはずです」
 その挨拶代わりが宝物と美女らしい。金銀のある宝物はまだしも、女のほうはただの口減らしにしか思えなかった。一通り見てみたが、金髪である外はどこででも探せる美女だった。その金髪も白金に近かったラシェルよりも純度に欠けたし、ミーネよりも鈍い者も多い。それで贈り物とは侮辱にも等しかった。だが、これは複雑な話ではないのだ。目一杯単純化できるような簡単な問題だ。機嫌取りで結果がどうこうなることでは最初からない。
 では、一体、セレンは何の意図があって、この会談を受託したのだろう。当然浮かぶこの疑問に、答えが出るのに然程の時は要さなかった。
 急に外が騒がしくなったかと思うと、1人の士官が謁見を求めてきたという報告を衛兵が届けてきた。それまでずっと静かに座っていただけだったマルクスが、士官がやや歩調早く歩いてきた時に、生唾を飲み込んだ。アリスがそれを疑問に思った刹那、セレンの元まで辿り着いた士官の耳打ちが漏れ聞こえる。
「騎兵隊が急襲され、散々に打ち破られました。死者行方不明者合わせて100前後です」
 その言葉に驚いて、セレンに視線をやると、アリスの目に映ったのは企みが成功して満足そうに軽く頷いたセレンの顔だった。それも直ぐに鉄面皮に戻り、席を憤然と立つ芝居を打つ。そのいきなりの行動に貴族たちは呆気に取られていた。
 セレンは怒りを表すように表情を作りながら低い声で彼らを非難した。
「信義を口にしながら、自らその言葉を汚すとは蛮族は恥を知らないと見える」
 何を言っているか、分からないと言ったように貴族たちは互いの顔を見合わせる。直接言葉は通じてはいなかったが、セレンの不興を何らかの要因で買ったことくらいは即座に理解できただろう。
 セレンは衛兵の方に向き直り、鋭く呼び付け、貴族たちを拘束するように命令を下した。
 その言葉が訳される間もなく、申し合わせたように現れた兵士たちが、次々と使節を拘束していく。茫然自失の体で貴族たちは異国の言葉を発していた。
 セレンは、最早それには見向きもせず、アリス以下の副官に命令を下す。
「アリーは第一、第二、マルクスは第三、第四大隊を率いて、最奥の駐屯地を強襲しろ。私は、一番手前を襲撃する。全く警戒していないはずだ。殺しつくせ」
それ以外全く彼と話す機会もなく、義務を遂行するしかなかった。
「アリー」攻撃に出発する副官たちの中、セレンは彼女の名を呼んだ。「君が統括しろ」
意図を察し、アリスは頷いて見せてから彼に背を向けた。既に準備の整っていた部隊を率いて闇に紛れて進み、3つの駐屯地で1番遠い野営を襲った。彼らは指揮系統が整っておらず、騎兵隊同士が小競合いの結果、休戦が破られたことをまだ知らなかったようで、見張りすら置いていなかった。
 堀もなく、歩塁もない。軍隊の体をなしていない相手だったので、戦闘というより虐殺の様相を見せ、思わず目を逸らしたくなるような地獄絵図がそこでは繰り広げられた。女子供は泣き喚き、男たちは姿を認められると問答無用で殺された。略奪をしている暇はなかった。駐屯地には火をかけ、その業火は夜空を赤く染め上げる。その火で、また数百人が焼かれたことだろう。完全に逃げ得たのは数えるほどだったに違いない。
 虐殺が終結した時点で、無抵抗に集められた非戦闘員たちも全員殺した。
 このまま決戦に繋がることは明白で、軍団の行動力を殺ぐものは排除せねばならなかった。それでも何の躊躇もなくその命令を下した自分に少しだけ驚いた。略奪に抵抗がある自分が虐殺には殆ど抵抗がないのは矛盾している。だが、ここで捕虜を取っている余裕などないし、それに疑念を挟む余地はないと分かりきっているからか冷徹な判断を下せた。
 アリスは気持ちを切り替えて、次の段階に移ろうとした。セレンは2個大隊を率い、本拠を攻めている。そして、アリスは4個大隊を率いている。2人は、無事だった基地の男たちは基地の炎上を見て、救援に向かう予想していた。それに基づいて行動する。アリスは、再び大隊を二つに分け、その一方をマルクスに指揮させて、予想される進路の両脇に兵を伏せた。
はたして何の警戒もなしに現れた敵軍に対し、両側から攻撃を加え、散々に打ち破り、敗走する彼らを追い討ちに討った。これで、纏まった軍は二つ消滅し、残りはセレンが担当した王の在る本拠だけだ。
 アリスは連戦で疲れている兵たちに少しの休息を取らせ、その間にホルタスに報告の騎兵を向かわせた。彼に後処理を任せる為だ。実質1個軍団しかこの作戦に参加していないが、連絡の難しさを考えれば残り2個軍団を動かすのは不可能だった。アリスもセレンも概要を共有した後は独自に動いており、同じ動きをホルタスやクラッシアヌスにも求めるのは無理がある。
 僅かな休憩の後、アリスは本拠へと兵を進めた。
暁の頃にそこに到着し、空気を支配していた紫とオレンジが交じり合った色に一瞬、戦争をしていることを忘れた。神々しさをぶち壊す、金属がぶつかる音と喊声に現実に引き戻され、アリスは現状を認識した。既に戦闘は始まっており、セレンが率いる4個大隊とアラマニ族王の率いる軍が本拠の丘を下った小さな平原で正攻法にぶつかっていた。
 大抵の蛮族の軍の長所は勇敢さに任せた突撃力だったが、セレンは隊列の層を厚くしてそれに耐えていた。蛮族はその長所と比例するのか継続能力がないのが欠点であり、戦闘開始から既に数時間が経ちつつある中、圧力は既に殆ど消えかかっているように見えた。その中でのアリス率いる2個大隊の到着で戦況は完全に入れ替わった。
 アリスの部隊は、アラマニ族側からの出現になったので、丁度、挟撃する形になった。彼女は再び二つに指揮を分けて、片方の指揮官マルクスに完全に包囲するように命じた。そして軍団兵に鬨の声を上げさせ、大いに励ましてから、突撃させた。
 軍団が雄叫びを上げながら、グラディウスを引き抜き蛮族の背後を襲って勝利を確定させる。逃げ道が無く圧殺されていく蛮族は哀れだったが、それも戦だ。全部殺される前に、アラマニ族は降伏した。
 アリスの軍はその捕虜たちの武装解除に当たり、セレンの本隊が本拠を制圧した。この基地と、アリスが最初に攻めなかった基地の非戦闘員は幸か不幸か殆どが生き残り、戦闘員の捕虜もかなりの数に登った。捕虜は、兵士1人につき1人奴隷として与えられ、残った者は全て売り払われた。部族総出の亡命だったからか相当な量に及んだ戦利品も軍団、補助軍団の分けなく与えられ、セレンの評判を更に高める効果を果たした。
 この時点で反乱は完全に鎮圧され、セレンは国内で老王に比する軍事的声望を得ることになった。勝利と苛烈さ、後に現れる統治政策によって。


BACK / INDEX / NEXT
SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ